スケーラー使ってますか?コード進行の自動生成という意味でスケーラーを使えば「作曲」できると思って購入されたかたもいらっしゃると思います。しかしスケーラーには自分でコードプログレッションを生成する機能はありません。コードプログレッションは自分で<選んでいく>もしくは<別途用意する>必要があります。もしかしたら「失敗した」と感じていらっしゃいますか?でもそれには著作権に関わるもっともな理由があると僕は思うんです。この記事ではAIアプリが曲を自動生成するとはどういうことなのか?どういう問題点があるのか?考えてみたいと思います。結論を見ていただければスケーラーが一般的な「自動作曲」機能を搭載していない・あるいはできない理由(あくまで僕の想像する理由ですが)もおわかりいただけると思います。
ここで終わってしまうとスケーラーを買っただけで「使えない」と放置していた以前の僕と同じ状態のまま。安いアプリではないので腹も立つと思います。ちょっとだけ考え方・使い方を変えてみませんか?ここまで書いたことと全く矛盾なくスケーラーは有能で強力なツールです。考え方を変えるだけでスケーラーは非常に役立つアプリに激変して「使える」ようになります。今回の記事では僕が考えるその方法をご説明します。
この記事でわかること
- スケーラーが「作曲」機能を持っていない理由
- AIが作曲するとはどういうことなのか?
- ランダムの手法(あらためて記事にしたいと思います)
- ジャンルの作法を使わないと良い曲に聞こえない
結論から言えば
僕の考えでは、そのまま楽曲に使えるようなクオリティの高いコード進行のジェネレートはAIアプリには原理的に「できない」からです。できない理由は「著作権」があるため。ただしジェネレートする必要はそもそもないんです。良いと感じられる楽曲を生み出しているコードプログレッションはすでに十分な数存在しているから。そのままそれを使えばいい。いやいや著作権の問題クリアできてないじゃない?と思ったかた。ご明察です。だからスケーラは「生成」はしないんです。その代わりまるっきり手本と同じ楽曲をつくってしまうミスを防ぐうまい仕組みを持っています。つまりスケーラーとは基本的に既にある名曲・ヒット曲の素晴らしいコード進行を分析するアプリ。だだしそれをそのまま使うのではなくそのハーモニーを自分のオリジナルのリズム・進行に「組み替えて」使うためのアプリなんです。
編曲にも著作権が認められる
ことについてはこちらの記事が詳しいです。
ロビン・シックとファレルの盗作裁判を弁護士が再検証 なぜ「曲の感じ」に著作権が認められたか?
https://realsound.jp/2015/07/post-3929.html(リアルサウンド)
モデル(お手本にした楽曲)の問題
コードの解析は現状でもDAWでできます。耳コピすれば完全なものも。そこにジャンルやリズムを指定してAIが曲を作るとしたらどうでしょう?ジャンルの作法を忠実に再現しないと良い曲に聞こえないという点を考慮に入れると同じコードを入れたら元の楽曲の著作権を侵害するぐらい近いものができないとAIとしては「クオリティが低い」ということになりますよね。だって一般の人が望むのは名曲のコード進行ならシンプルに名曲のアレンジじゃないですか。しかしそんな著作権侵害の原因となる可能性があるアプリを販売することはできません。これがきちんと名曲をモデリングしたAI作曲アプリであればあるほどAI作曲ができなくなる根本的な理由です。
スケーラーの回避方法
スケーラーが楽曲の生成はしないことはすでに書きましたがもうひとつうまい工夫があります。スケーラーは楽曲のMIDIないしAudioデータからコードを判定しますが出力はコードの情報だけ。リズムについての情報はすっぽり抜け落ちます。これで著作権侵害の可能性はゼロになります。判定されたコードで原曲のリズムを用いて原曲そっくりの楽曲を作ったらそれは『あなた』の著作権侵害です。
スケーラーとは
ちょっとイレギュラーな方向からスケーラーを紹介してしまいました。どんなアプリがご存じない方のために僕がみた中で一番くわしい解説記事を紹介します。ちなみにiPadのiOS版にはスタンドアロンがありますがPC版はDAW用のプラグインだけです。
スケーラーの使用の流れ
流れに沿って概要を説明します。
1お手本を用意する
ソースを用意してください。お手本にしたい楽曲・ステムのWAV。(mp3はダメのようです)。楽曲・コードプログレッションのMIDI。もしデータがなければ紙の情報等でも可能です。別のツールで解析したコード進行。歌本のコード。WEBの解説記事のコード進行。いずれでもOKです。
2コードのデータを作る
データがある場合はディテクト(解析)します。スケーラーにデータを読み込ませるとA列にコードが判定されます。判定されたデータはC列のプログレッションビルダーにコピペすることで使えるようになります。データがない場合は自分でプログレッションビルダーに直接コードネームから文字入力します。そのほか画面の鍵盤やMIDIキーボードを使って入力することもできます。
3リズムを考えながらコードを鳴らしてみる
先ほど書いた通り解析された段階でリズムの情報は抜け落ちていますのでリズムは自分で考える必要があります。C列に入力したコードはマウスクリックまたはMIDIキーボードから指一本で鳴らすことができるようになります。DAWにはコードを鳴らすノートを打ち込むことでリズムのついた音が作れます。コードは全部で56個まで使えますのでそのまま1曲に仕上げることも可能です。
ベーシックなコードはどれを使えば良いか?
判定されたコードだけで足りないケースがあるかもしれません。ここからは基本的な音階の知識が必要な話になりますがお付き合いください。
データから解析した場合
例えばこの曲データ(BIABサンプル曲:オーディオ)をディテクトしたとします。
するとこんなふうに判定されます。Aの段が判定されたコード。数が多いので全部は表示されていません。注目していただきたいのは中段。
中段にこんなふうに表示されています。
これがスケーラーが音から判定したこの曲のキーとスケールです。このキーとスケールから作られる基本のコードがB列に表示されています。楽曲に足りないコードがもしあれば最初はこの基本のコード中から追加することを検討します。
解析するデータの用意がない場合は楽曲のメロディとコードからkeyとスケールを自分で判断して入力することになります。コードを作るスケールは基本的にはその曲のメロディのd(ド)の音から始まるメジャースケールでOKです。dからのメジャースケールを指定すれば基本的にはマイナーの楽曲であってもうまくハマる基本コードがB列に表示されます。
必要に応じてコードを改変・追加する
スムースに繋がらない。響きが物足りないなどコードに手を加える必要が出てきたらコードを追加します。どう変えたらいいかがわかるためにはコードの知識があったほうがいいですね。このブログでは左手でかんたんにひけるコードのひきかたをおすすめしつつコードの解説記事をあげています。変化形も「和音博士」というアプリのチュートリアルにしたがって追加していっているところですのでよろしければ気長にお付き合いください。iOSアプリ「和音博士」にカバーされているコードはよく使われるものばかりですので全部おさえられるようになれば基本的にポップスのアレンジで困ることはなくなると思います。
和音博士のカテゴリーはこちら
https://4fingermusic.com/category/composition/waonhakase/
ピアノコードひいてみようのカテゴリーはこちら
https://4fingermusic.com/category/composition/pianochords/
「自動」作曲の問題点
有名曲と被らないようにコード進行をあえて変えるという考え方もあるかと思います。しかし良い音の響きを優先するならそれはあり得ないこと。リズムやメロディがオリジナルであればハーモニーを使うことをためらう理由は何もありません。作曲家が考え抜いた名曲のコードプログレッションこそ手本にするに値します。ランダム要素を入れてプログラムが作ったコードプログレッションは結局は人間がジャッジすることをあてにしているわけですから良いものができる可能性はあっても曲が長くなれば無限にサイコロを振り続ける作業が必要になります。それを避けるために自動生成の範囲を短くすると今度は曲の統一感が失われます。いずれにせよ作曲家が曲全体のストーリーを考えて作曲しているのに比べればクオリティの差は歴然です。スケーラーがコード進行の自動生成機能を持っていないのは生成したところでそれが良い音楽にならないことがわかっているから。それならないほうがマシと考えているからではないでしょうか?AIが作曲してくれるというSoundrawというサービスがありますが僕の聴いた限りでは楽曲を作る元にしているのは人間が作曲したフレーズです。そうでなければ音楽的なクオリティは確保できません。コンテンツクリエイターが自分のコンテンツに使える楽曲を提供するのが目的の有料サービスである以上ユーザーにサイコロをふらせるわけにはいきません。ですからこれは当然のことだと思います。スケーラーも考え方はいっしょです。作曲のベースにするのは人間が考えぬいた「これしかない」という良いコード進行であるべきなのです。
いかがだったでしょうか?
AIによる作曲を僕が否定しているように受け取られたかもしれませんが全くそんなことはありません。基本的に自分が考えたものについて曲の方向性を変えずに雰囲気をよりクオリティアップしてくれるコードや伴奏パターンの提案なら喜んでAIの指示に従います()。そういうより繊細な部分の作りこみについてもポピュラーミュージックを知り尽くした作曲AIならガンガン相談に乗ってくれるのではないでしょうか?それではまた次回のブログでお目にかかりましょう!