以前音のモヤモヤを防ぐためには?という記事を書きました。これは、AIならどう答える?という興味もあって書いた記事でしたが、回答は1)パートごとの周波数にかぶりを生じないようにする、2)意図しない不協和音を避ける、という的を射たものでした。音がモヤモヤしていると、聞いているときの不快感につながりますので、結果的に「流行らない」。曲の作り手としては、なるべく多くの人に聞いてほしいですから、それを避けるミックス・アレンジになるのは当然です。この観点で考えると日本の楽曲で使われる音が高くなるのには必然的な理由があることに気づきました。この記事ではその理由について掘り下げたいと思います。
この記事でわかること
- 日本の楽曲で高い音が使われる理由
- 低い音と高い音の違いとは?
- 音楽はリッチを目指す
- 音の美味しいところを使うためには
結論
三段論法でいってみたいと思います
大前提)低い音はぶつかりやすい(ローインターバルリミット)
小前提)日本の楽曲は音数が多い
結 論)日本の楽曲は高い音を多用する
補足すると低い音は倍音を多く含み、高い音は少ないです。倍音が多い音のほうが、響きが豊かで、楽器の特徴もはっきりしていますが、幅広い帯域の周波数を含んでいます。その結果、同時に鳴らした場合、倍音の多いほうが、より音のモヤモヤを生じやすいという事になります。それを避けてたくさんの音を使うためには必然的に「高い音」を使う必要があります。ローインターバルリミットとというのは音楽の専門用語で低い音が近い音程で同時になることを禁ずるルールのことです。
楽曲の音数が増える理由
単純にそのほうがリッチに聞こえるからですね。新しい曲と感じてもらうために、新しい音を使うというのは自然な考え方だと思います。いまも毎年のように新しいシンセサイザーが誕生するのにはそうした理由があるのではないでしょうか?例えば「シティ・ポップ」はそれまでの各国のネイティブなその国ごとの「歌謡曲」的なものにくらべれば、音数が多いはずです。経済的にも成長している社会であれば、リッチな音のほうが人気が出るのは普通でしょう。自分たちの気分にフィットしているからです。
現代社会の稠密さ
都市化による過密や、デジタル社会の情報過多に「音楽」で真正面から対峙していこうと思えば、楽曲の音も稠密にならざるを得ません。広くデジタルポップの音の激しさ・稠密さというのはリッチの先を目指しているからと言えるのではないでしょうか?僕がいま思いつくもので言えば、ドラムンベースや一部のボカロ曲などが特徴的だと思います。
リラックスや聞き流すための音楽
かたやLofiが流行しています。ここまで見たリッチの進化とは逆方向ですが、そのほうがリラックスの目的に適している。流行はそのためと考えられます。Tokyo発のLofiに需要があるのは、シティポップの次のフェーズだからではないでしょうか。音楽ではなく自分のやっている作業に集中する目的で、Lofiは聞き流すBGMとしての利用法も定着しています。
ボーカル曲を再考すると?
ボーカルも曲を構成する音のひとつなので、音数の多い曲では高い音が多用されることになります。バンドサウンドの延長でボーカルは小さくてよい、という考え方はありますが、バンドサウンドでそれが成立するのはそもそも楽器の数が少ないからとは考えられないでしょうか?楽器の数が増えていくと小さいボーカルは相対的に埋もれますので、歌や声の魅力を引き出すのは難しくなります。動画サイトで流れてくるギター1本の弾き語りが逆に魅力的に感じるのは、単純に声の割合が大きいからという理由もあるように思います。
ボーカル曲の難しいところ
かといって、「聞いてもらう」ことを考えると、単純に「音数を減らせばよい」とはならないのが難しいところ。リッチな曲に負けない聞きごたえが必要だからです。したがって一般的には、ボーカルを際立たせるために音数を減らす場合は、残った音はそれだけ倍音の含まれた良い音・味のある音でなければならないと考えられます。生楽器や高級音源の出番ですし、そうでない音源で我が道を行くならひねった音使いのセンスが必要になります。
いかがだったでしょうか?
センスといえば、単にそのセンスがなかっただけですが()、10数年前のかつてのDTMのチープな音では楽曲が成立しないという絶望を味わった元ボカロPとしては、Sunoの作るオケはとても参考になります。ボーカルを活かすヒントがいろいろ含まれていますが、基本的に一定の音量で鳴り続けるオケというのはあり得ず、オケだけでは曲としては聞くことができない、というのがポイントだと思います。使い方がむずかしいですが、声は非常に表現力のある「楽器」ですので、インストにしてしまうのは少々もったいない。Sunoのアイディアを使えば、気軽にボーカル入りの作曲にチャレンジできますので、ぜひ楽しんでみて下さい。それではまた次回のブログでおめにかかりましょう。
<参考記事>
参考記事はこちらです。