音楽の世界では、しばしば様々な概念が二分法で語られます。「プロかアマか」「クラシックかポピュラーか」など、私たちは無意識のうちに音楽に白黒をつけようとしがちです。しかし、実際の音楽体験は、単純な区分けでは表現しきれないほど豊かで多様なものです。
今回は、音楽にまつわるいくつかの二分法を取り上げ、それらの主張がいかに現実とかけ離れているか探ってみましょう。
1. 弾ける vs 弾けない
「あの人は楽器が弾ける」という表現をよく耳にします。しかし、これは非常に一面的な見方です。演奏能力は実際には広範なスキルの集合体であり、初心者から上級者まで連続的な成長過程があります。
例えば、簡単な曲を完璧に弾くことも立派な演奏技術です。また、難しい曲の一部分だけ弾けるようになることも、大きな進歩と言えるでしょう。演奏者にとっては「弾ける」「弾けない」の二分法ではなく、それぞれの段階で音楽を楽しむことが大切です。
2. プロフェッショナル vs アマチュア
プロとアマの区別は、時として音楽を楽しむ本質を見失わせることがあります。確かに、プロの音楽家は高度な技術と深い知識を持っています。しかし、アマチュアの中にも非常に高い技術や深い感性を持つ人が多くいます。
重要なのは、プロかアマかではなく、音楽をどれだけ深く楽しめているかです。音楽を楽しんでいることが伝わってこないプロの演奏は聴衆にとってはむしろ興ざめなものとなるでしょう。音楽は、それを職業にしているかどうかに関わらず、誰もが深く愛し、楽しむことができるものなのです。
3. クラシック vs ポピュラー
クラシック音楽とポピュラー音楽を対立させる見方は、両者の価値を低く見積もることにつながりかねません。実際には、どちらのジャンルも豊かな文化と歴史を持ち、それぞれに学ぶべき点が多くあります。
例えば、クラシック音楽の構造的複雑さや音色の探求は、ポピュラー音楽に新たな表現の可能性を与えています。一方で、ポピュラー音楽のリズムの多様性や即興性は、クラシック音楽の演奏に新しい息吹を吹き込んでいます。
4. 楽譜を読む vs 読まない
楽譜を読む能力は確かに重要ですが、それが音楽の全てではありません。耳で音楽を覚える能力や、即興演奏のスキルなど、楽譜以外にも音楽に不可欠な要素は数多くあります。
ジャズミュージシャンの中には楽譜を読まない人もいますが、彼らの音楽性の豊かさは疑う余地がありません。楽譜を読むことと、音楽を感じ表現することは、必ずしもイコールではないのです。
5. 独学 vs 師事
音楽の学び方に「正解」はありません。独学と師事、どちらが良いかは個人の学習スタイルや目標によって大きく異なります。
独学には自分のペースで学べる利点がありますが、師事することで効率的に技術を習得できる場合もあります。重要なのは、自分に合った学び方を見つけ、継続的に成長していくことです。
6. 感覚的 vs 理論的
音楽を感覚的に楽しむことと理論を学ぶことは、決して対立するものではありません。むしろ、両者は補完的な関係にあると言えるでしょう。
感覚的な演奏が理論的理解によってさらに豊かになることも多々あります。同様に、理論的知識も実際の演奏体験を通じてより深く理解されるものです。
7. ソロ vs アンサンブル
ソロ演奏とアンサンブル演奏は、それぞれに独自の魅力と技術があります。ソロでは個人の表現力が際立つ一方、アンサンブルでは他の演奏者との調和や相互作用が重要になります。
どちらが優れているかを問うのではなく、両方の楽しみ方を経験することで、音楽の多様な側面を理解し、より豊かな音楽体験ができるでしょう。
8. パフォーマンス vs リスニング
音楽を演奏することと聴くことは、どちらも音楽体験の重要な一部です。パフォーマンスすることで音楽への理解が深まり、リスニングによって新たなインスピレーションを得ることができます。
両方の活動をバランス良く行うことで、音楽をより深く、多角的に楽しむことができるのです。
9. 音感の有り vs 無し
音感の有無で音楽の才能を測ることは非常に一面的です。確かに、優れた音感は有利に働く場合もありますが、それだけで音楽家としての成功が決まるわけではありません。
音感が必ずしも優れていなくても、練習と努力で素晴らしい音楽家になることは十分に可能です。さらに言えば、音楽を心から楽しむためには、音感よりも音楽への情熱や楽しむ心の方がはるかに重要なのです。
10. 生楽器 vs コンピュータミュージック（DAW）
生楽器とコンピュータミュージック（DAW）を対立させる見方は、両者の独自の魅力と可能性を見落としがちです。
生楽器には、その音色や演奏体験に独特の魅力があります。一方、DAWは無限の可能性を持ち、新しい音楽の創造や実験に優れています。これらは対立するものではなく、むしろ相互に補完し合う関係にあるのです。
結論：グラデーションの中に見出す音楽の豊かさ
音楽の世界は、二分法では到底測りきれないほど複雑で豊かです。「0か100か」ではなく、その間に無限のグラデーションが存在するのです。
重要なのは、これらの二分法にとらわれず、自分のペースで音楽を楽しむことです。あなたの音楽体験は、誰かと比較するものではありません。自分なりの方法で音楽と向き合い、その豊かさを存分に味わってください。
音楽の魅力は、まさにこの多様性と複雑さにあります。二分法を超えて、音楽の無限の可能性を探求し続けることこそが、真の音楽の楽しみ方であるとぼくは考えています。このブログのテーマである「音感」について付け加えるなら、音楽を楽しんでいるうちに自然に音感は少しずつ向上し、音楽の新たな景色が見えるものと考えています。引き続き、音楽と自分の可能性をご一緒に追求していきましょう。